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ACL再建術における外側補強術の効果とは?再断裂や半月板損傷リスク低減の最新知見

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【ACL再建術と外側補強術の基本~なぜ注目されるのか?】

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前十字靭帯(ACL)は、膝の安定性を保つ上で非常に重要な靭帯です。スポーツや日常生活で膝をひねった際に断裂しやすく、特にスポーツ愛好家にとっては大きな問題となっています。ACLが断裂した場合、多くの方が再建手術を受けることでスポーツ復帰や生活の質を取り戻しています。しかし、手術を受けた方の中には、再断裂や膝のぐらつき(回旋不安定性)が問題になるケースも少なくありません。

こうした背景から、従来のACL再建術に加え、「外側補強術」と呼ばれる追加手術が注目されています。外側補強術には、**外側大腿筋膜張筋(腸脛靭帯)を利用した外側補強(LET:Lateral Extra-articular Tenodesis)**や、前外側靭帯(ALL:Anterolateral Ligament)再建などがあります。これらはACL再建術と組み合わせて行うことで、膝の回旋不安定性をより確実に抑え、再断裂のリスクを低減できることが近年明らかになってきました。

2013年に前外側靭帯の詳細な解剖学的研究が発表されて以来、膝の外側構造への関心が一気に高まりました。それまでの手術は膝の内部(関節内)だけに着目していましたが、外側補強術の有効性が様々な研究で実証されたことで、現在ではACL再建と外側補強をセットで行うケースが増えています。

【外側補強術の具体的な効果と最新エビデンス】

外側補強術の最大の目的は、ACL再建後の再断裂リスクの低減と、半月板損傷の予防です。実際、2025年に発表された大規模な臨床研究では、ACL再建術と外側補強術を併用したグループは、単独のACL再建術グループに比べて再断裂率が約半分に抑えられていたことが報告されています(5年間の再建失敗率:2.6% vs 4.9%)。この研究は保険データベースを用いて1,000人以上ずつを比較したもので、非常に信頼性の高い結果といえます。

さらに、外側補強術は二次的な半月板切除術(半月板の追加手術)のリスクも低減することが明らかになっています。これは、膝関節の安定性が保たれることで、半月板への負担が減るためと考えられています。

では、どのような方に外側補強術が推奨されるのでしょうか?近年のガイドラインや多くの研究から、再断裂リスクが高い患者さんに特に推奨されています。具体的な適応例は以下の通りです。

  • 再建術の再手術(リビジョン)症例
  • ピボットスポーツ(サッカーやバスケットなど切り返し動作が多い競技)を続ける方
  • 膝の強いぐらつき(ハイグレードピボットシフト)を認める方
  • 膝関節が非常に柔らかい(関節弛緩性)、または反張膝(膝が過伸展する)を持つ方
  • MRI等で前外側構造の損傷が認められる方
  • 慢性的なACL断裂や、半月板修復術を併施する方
  • 膝の前方移動量(前方引き出し)が7mmを超える場合や、脛骨後傾角が12度を超える場合

筆者らの施設では、こうした高リスク群にはほぼ全例で外側補強術を併用しています。その結果、2014年には約3%だった外側補強の併用率が、現在では90%以上に増加し、2年間の再断裂率は7%から2%前後まで減少しました。再手術例でも2年以内の失敗率が5%未満に抑えられています。

外側補強術は「合併症が多いのでは?」と心配される方もいますが、現在の術式では重大な合併症や膝の動きの制限などはほとんど認められていません。以前は関節外だけの手術による"膝の締め付け過ぎ(オーバーコンストレイント)"が問題とされていましたが、現代の技術では関節内再建と組み合わせることでこの問題がほぼ解消されています。

また、最近では手術に使う移植腱の種類や太さに関する議論もありますが、外側補強術を組み合わせることで移植腱の細さが再断裂リスクに与える影響は少なくなるという報告も増えています。新しい移植腱(腓骨筋腱や大腿直筋腱など)の活用も進んでおり、今後さらに適応範囲が広がる可能性があります。

【今後の展望と患者さん・医療者に求められること】

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これまで述べてきたように、外側補強術はACL再建術の再断裂リスクを大幅に下げる効果が期待できる非常に有力な方法です。再断裂リスクが高い方や、スポーツ復帰を目指す方にとっては、手術後のパフォーマンス維持やケガの予防という観点からも大きなメリットがあります。

今後は、さらに患者ごとのリスク評価が重要になり、膝の解剖や損傷状況を詳細に分析したうえで、最適な手術法の選択が求められます。また、手術以外にも、リハビリや運動指導、社会復帰支援など、トータルで患者さんをサポートする体制が必要です。

一方で、外側補強術の有効性や適応については世界的にもまだばらつきがあり、すべての整形外科医が積極的に取り入れているわけではありません。しかし、再断裂や合併症を防ぎ、患者さんの生活の質を高めるためには、最新のエビデンスをもとに柔軟に治療方針をアップデートしていくことが重要です。

最後に、**「膝の手術を受けるかどうか悩んでいる方」「スポーツ復帰を目指す方」「過去に再断裂を経験した方」**は、ぜひ主治医と最新の手術方法や自分に合った治療についてしっかり相談してください。膝の状態や生活スタイル、競技レベルなど、さまざまな観点から最適な治療を一緒に選択することが、安心して復帰するための第一歩です。


まとめ

  • ACL再建術における外側補強術は、再断裂リスクや半月板損傷のリスクを大幅に低減する最新治療です。
  • 特に再断裂リスクの高い方やスポーツ復帰を目指す方に推奨されます。
  • 患者さん一人ひとりの膝の状態や生活ニーズに合わせて最適な治療法を選ぶことが重要です。

参考論文

Helito CP, da Silva AGM, Editorial Commentary: Lateral extra-articular augmentations in ACL reconstruction reduces ACL graft failure and secondary meniscectomy, and is indicated for ACL primary and revision reconstruction., Arthroscopy: The Journal of Arthroscopic and Related Surgery (2025), doi: https://doi.org/10.1016/j.arthro.2025.04.018

 

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